
生活習慣病
生活習慣病
生活習慣病は生活習慣が病気の発症や悪化につながる病気のことです。例えば過食や肥満が糖尿病を悪化させたり、塩分の摂りすぎや運動不足が高血圧を悪化させたりといったものです。
日本人の三大死因は、がん、心疾患、脳血管疾患ですが、これらの危険因子となる肥満症、動脈硬化症、糖尿病、高血圧症、脂質異常症などはいずれも生活習慣病とされています。
生活習慣病にはすぐに健康に影響する病態と10年後や20年後といった少し先の時期に影響してくる病態(合併症)があります。
例えば糖尿病の急な合併症は高血糖や低血糖です。低血糖は長く続くと脳の障害を起こしたりします。高血糖も同様に脳の障害を起こして命に関わる場合もあります。
糖尿病の慢性の合併症は動脈硬化を進ませて心臓や脳の重要な血管を障害して心筋梗塞や脳卒中を起こしたり腎臓の細い血管を障害することで腎臓を悪化させたりすることです。目の血管を障害して失明に至るような病気を起こすこともあります。
生活習慣病の多くはそれ自体では自覚症状がほとんどないことも多いです。しかし生活習慣病は症状や急性の合併症を起こさなくても、長い時間をかけて健康をむしばみ寿命や生活の質を低下させていきます。生活習慣病の治療目標は急性の合併症だけではなく慢性の合併症も含めて防ぐことにあります。
健康診断には早期発見のためにこれらに対する検査が組み込まれています。早期発見、早期の対策(生活習慣の改善)が効果的です。異常値を治すのが目的ではなく、治療すべき病態があれば治療、改善すべき生活習慣があれば生活習慣の改善を行い、将来的な健康を維持するのが目的なので、一つ一つの検査値に一喜一憂する必要がないときも多いですが、検査値の異常が重大なものなのか軽微なものなのか判断がつかないということも多いと思います。健診などで気になる結果が出ていたらお気軽にご相談ください。薬が不必要な方に薬を処方することはありませんのでご安心ください。
糖尿病とは、膵臓から分泌されるインスリンの作用が不十分なために血液中のブドウ糖の濃度(血糖値)が正常範囲を超えて高くなる病気です。糖尿病は大きく4つのタイプに分類され、1型糖尿病、2型糖尿病、妊娠糖尿病、その他特定の機序・疾患によるものがあります。日本人では2型糖尿病が圧倒的に多く、その発症にはインスリンの分泌不足といった要因に加え、過食、肥満、運動不足、ストレスなどの生活習慣が関係しているといわれています。
糖尿病は初期症状が乏しく、目立った症状が現れることなく進行することが多い病気です。口渇(のどが渇く)、多飲(のどが渇くために水分を多く摂る)、多尿(尿の量が増える)、体重減少といった自覚症状が現れたころには、ある程度進行してしまっていることもあります。さらに、病気が進むと三大合併症と呼ばれる糖尿病網膜症、糖尿病性腎症、糖尿病神経障害を発症して、末期には失明したり、透析治療が必要になったりすることもあります。また、心筋梗塞や脳梗塞など、命に関わる病気を引き起こす可能性も高まります。そのため、早いうちから、血糖値をコントロールすることが大切なのです。
糖尿病の予防、あるいは進行を遅らせるためには、生活習慣を見直すことが大切です。糖尿病の発症を未然に防ぐ1次予防、発症したとしても血糖コントロールを良好に保つ2次予防、さらに合併症の発症を回避する3次予防、これらはすべて生活習慣の改善が重要となります。
糖尿病の予防、あるいは進行を遅らせるためには、生活習慣を見直すことが大切です。糖尿病の発症を未然に防ぐ1次予防、発症したとしても血糖コントロールを良好に保つ2次予防、さらに合併症の発症を回避する3次予防、これらはすべて生活習慣の改善が重要となります。
高血圧には、他の疾患や薬剤の副作用が原因で起こる二次性高血圧と、原因のはっきりしない本態性高血圧がありますが、日本人の高血圧症の約90%が本態性高血圧といわれています。本態性高血圧は、遺伝的要因と塩分の摂り過ぎ、肥満、過度な飲酒、喫煙、運動不足、精神的なストレスなどの環境的要因が重なって発症すると考えられています。
高血圧症は自覚症状に乏しく、なかなか気づくことができませんが、そのままにしておくと、動脈硬化を生じて心不全や狭心症、心筋梗塞といった心臓血管系の病気をまねいたり、脳出血・脳梗塞の原因になったりします。症状がなくても放置しておくことは禁物です。健康診断で血圧が高いと言われたり、血圧が気になったりした場合は血圧を測定して記録しておきましょう。本態性高血圧には継続的に行う適度な運動、食生活を中心とした生活習慣の改善が予防と治療に有効です。
それに対して二次性高血圧は重症の高血圧が多く、臓器障害も早期に出やすく進行もしやすいという傾向があります。臓器障害が進行してしまうと血圧を治療しても元に戻らない可能性がありますので、重症の高血圧と言われたらすぐ受診しましょう。
健診や病院に受診したときだけ血圧が高いが普段は低いという方(白衣高血圧という表現をしたりします)も、将来的にはずっと血圧が高い状態(いわゆる高血圧)になりやすいと言われており生活習慣を改善し始める良い機会だと思います。
何を改善すれば良いか判らないなど疑問点があればご相談ください。
高血圧の診断基準(日本高血圧学会)2019
※ご自宅で測る家庭血圧の場合は、診察室よりも5mmHg低い基準となります。
脂質異常症とは、血液中の脂質の値が基準値から外れた状態をいいます。「悪玉コレステロール」といわれるLDLコレステロールや血液中の中性脂肪(トリグリセライド)が必要以上に増えたり、あるいは「善玉コレステロール」であるHDLコレステロールが減ったりする病態です。これらの脂質異常はいずれも動脈硬化と関連します。
脂質異常症は、それだけではとくに症状が現れることはほとんどありませんが、気がつかないうちに血管が傷つけられ、静かに動脈硬化が進行し、脳や心臓の疾患につながるおそれがあります。生活習慣病としての脂質異常症の主な原因は、食生活(肥満・カロリー過多)や飲酒、運動不足などですが、体質的な要素もありますので生活習慣の改善だけではなかなか下がらず薬が必要となることも多いです。
多くの脂質異常症は生活習慣病ですが、脂質異常症には原発性といって遺伝疾患によって起こるものもあります。これは生活習慣にかかわらず起こります。その中で家族性高コレステロール血症(FH)という病気は特に重要です。生活習慣病としての脂質異常症は壮年から中年期からLDLが上昇しますが、この病気は生まれたときから著明な高LDLにさらされます。高いLDLにさらされる時間の総量が動脈硬化の進行に関連すると考えられていますので、30代からLDLが上がる人が50~60代に動脈硬化が問題になるとすると、生まれたときから高かった人は単純に考えても30年早く動脈硬化が起こってきます。さらにLDLの値も生活習慣病による高LDL血症にくらべかなり高値なことが多く、もっと早まる人もあります。この疾患は一般の方にはあまり知られていないかもしれませんが、最も頻度の高い遺伝疾患の一つと言われています。遺伝子異常の程度によって重症度は変わりますが、その頻度はヘテロといって二つある遺伝子の片方が異常という方で300人に一人、極めて重症となる二つとも異常なホモで数十万人に一人と言われています。見つかった段階ですでに高LDLの期間が長くあることが多いので、人生での高LDLの総量を減らすためには徹底的なLDL低下の治療が必要です。
また、続発性といって全く違う病気の影響でLDLや中性脂肪が高くなってしまうひともいます。その場合は原因となる病気の治療で改善することがあります。続発性高LDL血症の代表的な病気は甲状腺ホルモンが減ってしまう甲状腺機能低下症や尿に多量の蛋白が漏れ出てしまうネフローゼ症候群などです。中性脂肪が高くなる病気の代表は糖尿病です。
高尿酸血症とは血液中の尿酸が7.0mg/dlを超える病態をいいます。痛風や腎結石、尿路結石の原因になるほか、腎臓を傷つけてしまったりします。痛風や尿路結石は痛みがでますが、腎臓の障害は症状なく進行します。また、高尿酸血症には高血圧やメタボリックシンドローム、脳や心臓の血管の障害が合併しやすいことも知られています。
遺伝的な素因もありますし、食事、飲酒、運動などの生活習慣も関わります。
砂糖や塩をたくさん水に溶かしたとき、溶けきれなかったものがたまるのはご存知だと思います。尿酸も血液や体液の中に溶ける量を越えてしまうと溶けきれずに結晶ができてしまいます。尿酸の結晶が関節にたまって炎症が起きた状態が痛風です。足の親指の付け根などに生じやすく、痛風発作はあまりの痛みで足を引きずってしまうこともあります。
自分は尿酸の値が高くても痛風になったことはないから大丈夫と思われているかもしれませんが本当にそうでしょうか。厳密には同じ現象ではないですが、過冷却に似たところがありますので、それを例にしてお話しします。水をゆっくり0℃以下にしても凍らないことがあります。昔テレビなどでやっていましたが、その状態の水に衝撃を加えると一気に凍ります。過飽和もある意味似ていて、本来結晶ができてしまう濃度でも溶けたままになっていることはあります。しかし、一度核となる結晶ができてしまうと一気に増えてしまいます。尿酸値が9.0mg/dlを越えてくるとかなり痛風の危険が高まります。痛風発作を起こしたことのある人ではすでに核がある状態なので、7台の尿酸値でも危険です。
ビールが尿酸を上げることはご存知の方が多いですが、プリン体という尿酸の元が多いためと思われていると思います。そのためプリン体オフなら大丈夫と考えておられると思いますが、実はアルコールも尿酸の尿への排泄を妨げることで尿酸を上げるのです。ですからプリン体オフのビールやその他のお酒もやはり高尿酸血症のリスクになります。尿酸が急上昇したときは痛風の危険が高まると言われています。日頃尿酸が高い方、痛風発作の経験がある方は注意しましょう。
痛風発作は消炎鎮痛剤などの治療で、1週間~10日ほどで落ち着きますが、尿酸が高い状態をそのまま放置すると関節炎による結節(コブのようなもの)ができたり、腎機能障害や尿路結石のリスクを高めたりします。ただし、痛風発作が起こっているときには鎮痛剤などの治療は行いますが、尿酸降下薬はすぐには始めません。実は尿酸が上がるときだけではなく、下がるときも痛風発作の危険が高いことが知られているからです。尿酸を下げる治療は痛風発作が治まってからになります。痛風を起こしていない人はすぐに薬を始めることができますが、急に下げることは避けて少量から始めるのが基本になっています。尿酸の結晶は、血清尿酸値が6.8mg/dl以上で形成されうるといわれていますので、6.0mg/dl以下に保つことが治療目標となります。まずは原因となる生活習慣がないかを確認し、運動習慣や食生活を改善していくことが大切です。
よく皆様からある質問に「(高血圧などで)薬を飲み始めたら辞められないのでしょう?」というものがあります。薬を飲んで下がったらもう薬はいらないと考える方がたまにおられるようですが、風邪など自然に治る病気とは違い、血圧が高くなる要因がずっとある限りはやめたら血圧は上がります。血圧が良くなったのに薬を処方されて飲むように言われるので「やめられない」と感じられるのかもしれませんね。
そういう質問をいただいたときは、「やめられない訳ではないが続ける人が多い」という表現をします。
実際にはもう少しくわしく説明します。
例えば高血圧の方が来られたとします。健診で1回血圧が高くても高血圧の診断にはなりませんので、自宅などのリラックスした状況でしばらく血圧を測って記録することを勧めます。ずっと血圧が高い人は治療が必要になります。治療というと薬を思い浮かべる方が多いと思いますが、生活習慣の改善も立派な治療です。
高血圧の程度やそれによる合併症の状況にもよりますが、高血圧の程度が軽ければ急な合併症の危険性は低いので、薬は処方せずにまず生活習慣の改善を勧めることも多いです。薬を使う場合もまず軽い血圧の薬を使って下げておいて、同時に生活習慣の改善も図ってもらいます。それによって薬がいらなくなるくらい血圧が下がれば当然薬はやめられるわけです。ただ、長年の生活習慣を変えるのはなかなか大変ですし、一時的にできてもずっと続けるというのは意外に難しいようです。そのため「やめられない」方が多くなります。生活改善で薬がいらなくなった方でも年齢が上がるにつれてまた血圧があがって薬を再開しなければならない人もいます。
一般に生活習慣病の治療は薬だけではなく生活習慣の改善が重要です。生活習慣を変えようというご本人の意思が大事になってきます。そのためには薬を避けたい、もう少し先にしたいという気持ちは生活習慣改善の大きな動機になります。
一時的な改善にはあまり意味が無く良い状態の維持が必要ですので、生活習慣の改善を続けようという気持ちを大事にしています。
以前は医師の経験のみによって治療法のさじ加減が決められていました。現在では医療をみんな同じように受けられるようにガイドラインという診療の目安を作ることによって標準化しようとされています。このガイドラインはたくさんの患者様を集めることによってどの治療がより良いかというのを調べる大規模試験などに基づいて作られています。ガイドラインは治療の標準化、皆様が同じレベルの治療を受けられるという意味で非常に良いシステムですが、それでも限界はあります。
意味のあるデータを作るためにはたくさんの人を集める必要があるので、集められた人はある程度病態が似ている人となります。少し特殊な病態の人はそのデータの対象になっていないので、厳密に言うとどの治療法が良いかというのはわからない状態のこともあります。また、大規模試験は個人を扱うのではなく集団を扱うので、個人個人の状況のことは考えてくれません。
医師の経験できる患者様の数は限られてはいますが、それを丁寧に対応することで積み上げた経験・知識によっていかに個別の患者様一人一人に対応するかが医師の技量とも言えます。そういった点で、まだ医師の経験というのはやはり大事になると考えています。
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